得意になるばかりだから、わざと黙っていた。

        九

 これが豆油《まめあぶら》の精製しない方で、こっちが精製した方です。色が違うばかりじゃない、香《におい》も少し変っています。嗅《か》いで御覧なさいと技師が注意するので嗅いで見た。
 用いる途《みち》ですか、まあ料理用ですね。外国では動物性の油が高価ですから、こう云うのができたら便利でしょう。第一大変安いのです。これでオリーブ油の何分の一にしか当らないんだから。そうして効用は両方共ほぼ同じです。その点から見てもはなはだ重宝《ちょうほう》です。それにこの油の特色は他の植物性のもののように不消化でないです。動物性と同じくらいに消化《こな》れますと云われたので急に豆油がありがたくなった。やはり天麩羅《てんぷら》などにできますかと聞くと、無論できますと答えたので、近き将来において一つ豆油の天麩羅を食ってみようと思ってその室を出た。
 出がけに御邪魔でもこれをお持ちなさいと云って細長い箱をくれたから、何だろうと思って、即座に開けて見ると、石鹸《シャボン》が三つ並んでいた。これがやっぱり同じ材料から製造した石鹸ですと説明されたが、普
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