、別段怪しい事もないが、気がついて見ると、鉄軌《レール》の据《す》え方《かた》が少々違うようである。第一内地のように石を敷かない計画らしい。御影石《みかげいし》が払底《ふってい》なのかいと質問して見たら、すぐ、冗談云っちゃいけないとやられてしまった。これが最新式の敷方《しきかた》なんで、土台をどうとかして、どうとかして、鉄軌と鉄軌の間を混合金属で塗り固めて全線をたった一本の長い棒にしてしまって……とあたかも自分が技師であるかのごとき自慢である。内地から来たものはなるほど田舎《いなか》もの取扱にされても仕方がない。そいつは感心だと、全く感心すると、技師を信任して、少しも口を出さずに、どうでも自分の思った通りをやらせるから、そんな仕事もできるのさと云った。内地では何でもやかましく干渉する奴がたくさん出て来るものと見える。
 馬車が岡の上へ出た。そこはまだ道路が完成していないので、満洲特有の黄土《こうど》が、見るうちに靴の先から洋袴《ズボン》の膝《ひざ》の上まで細かに積もった。この辺ももう少しすると、ホテルの前のように、カンカンした路に変化する事だろうが、そんな事を口外すれば、是公がますます
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