遠くからこの三つの建築の位地《いち》と関係と恰好《かっこう》とを眺めて、その釣合のうまく取れているのに感心した。
 あれは何だいと車の上で聞くと、あれは電気公園と云って、内地にも無いものだ。電気仕掛でいろいろな娯楽をやって、大連の人に保養をさせるために、会社で拵《こしら》えてるんだと云う説明である。電気公園には恐縮したが、内地にもないくらいのものなら、すこぶる珍らしいに違ないと思って、娯楽ってどんな事をやるんだと重ねて聞き返すと、娯楽とは字のごとく娯楽でさあと、何だか少々|危《あや》しくなって来た。よくよく糺明《きゅうめい》して見ると、実は今月末《こんげつすえ》とかに開場するんで、何をやるんだか、その日になって見なければ、総裁にも分らないのだそうである。
 そのうち馬車が、電車の軌道《レール》を敷いている所へ出た。電車も電気公園と同じく、今月末に開業するんだとか云って、会社では今支那人の車掌運転手を雇って、訓練のために、ある局部だけの試運転をやらしている。御忘れものはありませんか、ちんちん動きますを支那の口で稽古《けいこ》している最中なのだから、軌道《レール》がここまで延長して来るのは
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