ほこり》を一度に頭から浴びると云う苦痛だけであった。余の車屋はこの暗い門の下を潜って、城内の満鉄公所まで、悪辣無双《あくらつむそう》に引いて行った。余は生きた風呂敷包のごとく車の上で浮沈《ふちん》した。
四十七
茶を飲むと、酸《す》いような塩はゆいような一種の味がする。少し妙だと思って、茶碗を下へ置いてゆっくり橋本の講釈を聞いた。その講釈によると、奉天には昔から今日《こんにち》に至るまで下水と云うものがない。両便の始末は無論不完全である。そこで古来から何百年となく奉天の民が垂れ流した糞小便《くそしょうべん》が歳月の力で自然天然《じねんてんねん》に地《じ》の底に浸《し》み込んで、いまだに飲料水に祟《たた》りをなしているんだと云う。一応はもっともだが、説明が少し科学的でないようである。第一それほどの所なら穀類野菜ともに、もっとよくできなければならないはずだと思ったが、馬鹿気《ばかげ》ているから議論もしなかった。橋本もこれは伝説だよと断った。伝説と云えば日本武尊《やまとだけのみこと》の東夷征伐と同種類に属すべきもので、真偽以外に、重く取扱わねばならぬ筋の来歴を有している
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