し込んだが、支那の家に固有な一種の臭《におい》が、たちまち鼻に感じたので、一二歩往来の方へ出て佇《たたず》んでいた。今云う門は十間ばかり先の四辻《よつつじ》にあるので、余は鳥打帽の廂に高い角度を与えてわざわざ仰《あお》むいて見た。時刻は暮に近い頃だったから、日の色は瓦《かわら》にも棟《むね》にも射さないで、眩《まぼ》しい局部もなく、総体が粛然《しゅくぜん》と喧《かま》びすしい十字の街《まち》の上に超越していた。この門は色としては、古い心持を起す以外に、特別な采《あや》をいっこう具えていなかった。木も瓦も土もほぼ一色《ひといろ》に映る中に、風鈴《ふうりん》だけが器用に緑を吹いていただけである。瓦の崩《くず》れた間から長い草が見えた。廂の暗い影を掠《かす》めて白い鳩が二羽飛んだ。余は久しぶりに漢詩というものが作りたくなった。待っている間少し工夫して見たが、一句も纏《まと》まらないうちに、橋本が筆と墨を抱《かか》えて出て来たので興趣《きょうしゅ》は破れてしまった。
 このほかにこの門から得た経験は、暗い穴倉のなかで、車に突き当りはしまいかと云う心配と、煉瓦《れんが》に封じ込められた塵埃《ちり
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