城ほど凸凹《でこぼこ》にでき上っていないから、むやみに車の上で踊をおどる苦痛はないが、その引き方のいかにも無技巧で、ただ見境《みさかい》なく走《か》けさえすれば車夫の能事畢《のうじおわ》ると心得ている点に至っては、全く朝鮮流である。余は車に揺られながら、乗客《じょうかく》の神経に相応の注意を払わない車夫は、いかによく走《か》けたって、ついに成功しない車夫だと考えた。
そのうち大きな門の下へ出た。奉天へ前後四泊した間に、この門を何度となく潜《くぐ》った覚《おぼえ》がある。その名前も幾度《いくたび》となく耳にした。ところがそれを忘れてしまった。その恰好《かっこう》もはなはだ曖昧《あいまい》に頭に映るだけである。しかし奉天の市街《まち》に入《い》って始めて埃《ほこり》だらけの屋根の上に、高くこの門を見上げた時は、はあと思った。その時の印象はいまだに消えない。橋本といっしょにこの門の傍《そば》にある小さな店に筆と墨を買いに行った折の事も、寂《さ》びた経験の一つとしてよく覚えている。その時橋本は敷居を跨《また》いで、中へ這入《はい》った。余も橋本に続こうとして身体を半分|廂《ひさし》から奥へ差
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