いにく窓には寒冷紗《かんれいしゃ》が張ってあった。手早く硝子《ガラス》を開けて首を外へ出すと、外はもう一面に夕暮れていて、蒼《あお》い煙が女の姿を包んでしまったので誰だか分らなかった。
橋本の連中はその晩帰って来た。下女のしらせで、暗い背戸《せど》に出て見ると、豆のような灯《ひ》が一つ遠くに見えた。下女はあれが連中だと云う。いくら野広《のびろ》いところだって、橋本以外にも灯が見える事もあるだろうと尋ねても、やっぱりあれだと云う。はたしてそうであった。灯は夕方宿から迎《むかえ》に出した支那人の持って行った提灯《ちょうちん》である。背戸口に馬を乗り捨てた橋本は、そう骨を折って見に行く所でもないよと云った。大重君は馬から三度落ちたそうである。
四十五
奉天へ行ったら満鉄公所《まんてつこうしょ》に泊《とま》るがいいと、立つ前に是公《ぜこう》が教えてくれた。満鉄公所には俳人|肋骨《ろっこつ》がいるはずだから、世話になっても構わないくらいのずるい腹は無論あったのだが、橋本がいっしょなので、多少遠慮した方が紳士だろうという事に相談がいつか一決してしまった。停車場《ステーション
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