》には宿屋の馬車が迎えに来ていた。やはり泥の中から掘出して、炎天で乾かしたように色が変っている。荷物と人間をぐるに乗せて、構内を離れるや否や、御者《ぎょしゃ》が凄《すさま》じく鞭《むち》を鳴らした。峠《とうげ》を越す田舎《いなか》の乗合馬車よりも手荒な取扱方である。広い通りはそれほどでもないが、しだいに城内に近づくに従って、今まで野原同然に茫々《ぼうぼう》としていた往来《おうらい》が、左右の店の立込《たてこ》んで来ると共に狭くなる上に、鉄道馬車がその真中を駆けつつあるにもかかわらず、烈しい鞭の影は一分に一度ぐらいはきっと頭の上で閃《ひら》めいた。馬は無理にも急がなければならない。けれども奉天だけあって、往来の人は馬車の右にも左にも、前にも後にも、のべつに動いている。そこへ騾馬《らば》を六頭も着けた荷車がくるのだから、牛を駆るようにのろく歩いたって危ない。それだのに無人《むにん》の境《さかい》を行くがごとくに飛ばして見せる。我々のような平和を喜ぶ輩《ともがら》はこの車に乗っているのがすでに苦痛である。御者はもちろんチャンチャンで、油に埃《ほこり》の食い込んだ辮髪《べんぱつ》を振り立てなが
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