よう》な文采《ぶんさい》は眸《ひとみ》に落ちるべきはずでない。余はむしろ怪しい趣《おもむき》をもって、この女の姿をしばらく見つめていた。
 室に帰ってまた寝た。眼が覚《さ》めると窓の外で虫の声がする。淋《さび》しくなったから、西洋間へ出て、長椅子の上に腰をかけて、謡《うたい》をうたった。無論|出鱈目《でたらめ》である。そこへ下女が来た。先刻《さっき》の女の事を聞いたら、何でも宅《うち》で知ってる人なんでしょうと云っただけで、ちっとも要領を得ない。昨夕《ゆうべ》飯を済まして煙草《たばこ》を呑《の》んでいると急に広間の方で、オルガンを弾《ひ》く音がしたが、あの女がやったんじゃないかと聞くと、いいえ昨夕のは宅の下女ですと云う。この原のなかに、それほどハイカラな下女がいようとは思いがけなかった。先刻の袴はもう帰ったそうである。
 余は一人長椅子の上に坐《すわ》った。そうして永い日が傾《かたむ》き尽して、原の色が寒く変るまでぽかんとしていた。すると静かな野の中でどうぞ、ちと御遊びに、私一人ですからと云う嬌《なまめ》かしい声がした。その音調は全くの東京ものである。余は突然立って、窓の外を眺めた。あ
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