みに高い。高いはずである。室《へや》の入口には二階がついていて、その二階の手摺《てすり》から、余の坐っている所が一目に見下《みおろ》されるような構造なんだから、つまるところは、余の頭の上が、一階の天井|兼《けん》二階の天井である。後《のち》に人の説明を聞いて始めて知ったのだが、このだだっ広い応接間は、実は舞踏室で、それを見下《みくだ》している手摺付の二階は、楽隊の楽を奏する所にできているのだそうだ。そんなら、そうと早くから教えてくれれば、安心するものを、断りなしに急に仏様のない本堂へ案内されたものだからまず一番に吃驚《びっくり》した。余は大連滞在中何度となくこの部屋を横切って、是公《ぜこう》の書斎へ通ったので、喫驚《びっくり》する事は、最初の一度だけですんだが、通るたんびに、おりもせぬ阿弥陀様《あみださま》を思い出さない事はなかった。
室を這入《はい》って右は、往来を向いた窓で、左の中央から長い幕が次の部屋の仕切りに垂れている。正面に五尺ほどの盆栽を二|鉢《はち》置いて、横に奇麗《きれい》な象の置物が据《す》えてある。大きさは豚の子ほどある。これは狸穴《まみあな》の支社の客間で見たも
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