》の斡旋《あっせん》ですでに準備のできている宴会を断った。そうして逃げるように汽車に乗った。乗る時橋本にこの様子じゃ千山《せんざん》行は撤回だと云った。実際撤回しなければならないほど、容体《ようだい》が危《あや》しくなって来た。ただ向うに見える一点の灯火《ともしび》が、今夜の運命を決する孤《ひと》つ家《や》であると覚悟して、寂寞《せきばく》たる原を真直《まっすぐ》に横切った。原のなかには、この灯火よりほかに当《あて》になるものは一つも見つからないのだから心細かった。宿屋はたった一軒かと聞いたら、案内がええと答えた。湯崗子《とうこうし》は温泉場だと橋本のプログラムの中にちゃんと出ているのだから、温泉がこの茫々《ぼうぼう》たる原の底から湧《わ》いて出るのだろうとは、始めから想像する事ができたが、これほど淋《さび》しい野の面《おもて》に、ただ一軒の宿屋がひっそり立っていようとは思いがけなかった。
 そのうちようやく灯のある所へ着いた。平家作《ひらやづくり》の西洋館で、床《ゆか》の高さが地面とすれすれになるほど低い。板間《いたま》ではあるが無論靴で出入《でいり》をする。宿の女は草履《ぞうり》を
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