曠野《こうや》の景色《けいしょく》が眼の前に浮んでくる。けれども歩いている途中は実に苦しかった。飯の菜《さい》に奴豆腐《やっこどうふ》を一丁食ったところが、その豆腐が腹へ這入《はい》るや否や急に石灰《いしばい》の塊《かたまり》に変化して、胃の中を塞《ふさ》いでいるような心持である。腮《あご》の奥から締めつけられて、やむをえない性質《たち》の唾液《つばき》が流れ出す。それに誘《いざな》われるままにしておくと、嘔《は》きたくなる。せめて口中の折合《おりあい》でもと思って、少し抵抗しにかかると、足が竦《すく》んで動けなくなる。余は幾度《いくたび》か虫の音の中に苦しい尻を落ちつけようかと思った。ただ橋本に心配させるのが、気の毒である。支那の荷持《にもち》に野糞《のぐそ》を垂《た》れてると誤解されたって手柄《てがら》にもならない。そこで無理に歩いた。
遥《はるか》向うに灯《ひ》が一つ見える。余が歩いている路は平らである。灯はその真正面に当る。あすこへ行くんだろうと推測して星の下を無言に辿《たど》った。今日の午《ひる》は営口で正金銀行の杉原君の御馳走《ごちそう》を断った。晩は天春君《あまかすくん
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