《いいかげん》に歩を移して、突き当りの部屋に這入った。そこも狭い土間で、中央には普通の卓上《テーブル》が据《す》えてあった。それを囲んで三人の男が食事をしている。皿小鉢《さらこばち》から箸《はし》茶碗《ちゃわん》に至るまで汚《きた》ない事はなはだしい。卓に着いている男に至ってはなおさら汚なかった。まるで大連の埠頭《ふとう》で見る苦力《クーリー》と同様である。余はこの体裁《ていさい》を一見するや否や、台所で下男が飯《めし》を掻《か》き込んでるんじゃなかろうかと考えた。ところがつい隣の室でしきりに音楽をやっている。今見た美人のいる所とはつい三間とは離れていない。実に矛盾な感じである。
余は二歩ばかり洋卓《テーブル》を遠退《とおの》いて、次の室の入口を覗いて見た。そうしてまた驚いた。向《むこう》の壁に倚添《よりそ》えて一脚の机を置いて、その右に一人の男が腰をかけている。その左に女が三人立っている。その前には十二三の少女が男の方を向いて立《たっ》ている。少し離れて室《へや》の入口には盲目《めくら》が床几《しょうぎ》に腰をかけている。調子の高い胡弓《こきゅう》と歌の声はこの一団から出るのである
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