こうじ》の左右は煉瓦《れんが》の塀《へい》で、ちょっと見ると屋敷町のように人通りが少い。それを二十間ほど来て左手の門を這入《はい》った。ただ偶然に這入ったのだから、家の名も主人《あるじ》の名も知るはずがない。今から考えると、小路のうちには同じような家が何軒となく並んでいて、同じような門がまたいくつでも開《あ》いているのだから、とくにここだけを覗《のぞ》くべき誘致《インデュースメント》は少しもなかったのである。余はただ案内者の後《あと》に跟《つ》いて何の気なしに這入った。その案内者もまた好い加減に這入った。案内者は青林館《せいりんかん》と云う宿の主人である。かつて二葉亭《ふたばてい》といっしょに北の方を旅行して、露西亜人《ロシアじん》に苛《ひど》い目に逢《あ》ったと話した。
 門を這入ると、右も室《へや》、突き当りも室である。左りも隣の壁に隔てられなければ室であるべきはずなのだから、中の一筋だけが頭の上に空を仰ぐ訳になる。そこに立って右手の部屋を覗くと、狭い路次《ろじ》から浅草の仲店《なかみせ》を看《み》るような趣《おもむき》がある。実際仲店よりも低く小さい部屋であった。その一番目には幕
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