眺められたが、それもついに消えてしまった。この黄色い屋根は奇麗《きれい》であった。あれは玉蜀黍《とうもろこし》が干してあるんだよと、橋本が説明してくれたので、ようやくそうかと想像し得たくらい、玉蜀黍を離れて余の頭に映った。朝鮮では同じく屋根の上に唐辛子《とうがらし》を干していた。松の間から見える孤《ひと》つ家《や》が、秋の空の下で、燃え立つように赤かった。しかしそれが唐辛子《とうがらし》であると云う事だけは一目ですぐ分った。満洲の屋根は距離が遠いせいか、ただ茫漠《ぼうばく》たる単調を破るための色彩としか思われなかった。ところがその屋根も高粱もことごとく影を隠してしまって、あるものはただの地面だけになった。その地面には赤黒い茨《いばら》のような草が限りなく生えている。始めは蓼《たで》の種類かと思って、橋本に聞いて見たら橋本はすぐ冠《かむり》を横に振った。蓼じゃない海草《かいそう》だよと云う。なるほど平原の尽きる辺《あた》りを、眼を細くして、見究《みきわ》めると、暗くなった奥の方に、一筋鈍く光るものがあるように思われる。海辺《うみべ》かなと橋本に聞いて見た。その時日はもう暮れかかっていた。
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