かねぬ時代ならとにかく、書く材料の払底《ふってい》になった今頃、何か記念のためにと、短冊《たんじゃく》でも出された日には、節季《せっき》に無心を申し込まれるよりも苛《つら》い。大連を立つとき、手荷物を悉皆《しっかい》革鞄《かばん》の中へ詰め込んでしまって、さあ大丈夫だと立ち上った時、ふと気がついて見ると、化粧台の鏡の下に、細長い紙包があった。不思議に思って、折目を返して中を改めると、短冊である。いつ誰が持って来て載せたものか分らないが、その意味はたいてい推察ができる。俳句を書かせようと思って来たところが、あいにく留守《るす》なので、また出直して頼む気になって、わざと短冊だけ置いて行ったに違ない。余はこの時化粧台から紙包を取りおろして、革鞄の中へ押し込んで、ホテルを出た。この短冊はいまだに誰のものか分らない。数は五六枚で雲形《くもがた》の洒落《しゃれ》たものであったが、朝鮮へ来て、句を懇望されるたびに、それへ書いてやってしまったから今では一枚も残っていない。長春の宿屋でも御神さんに捕《つら》まった。この御神さんは浜のものだとか云って、意気な言葉使いをしていたが、新しい折手本《おりでほん》
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