は二千万とか二億万とかの財産家だそうだが、それは嘘《うそ》だろう。脂《やに》の強い亜米利加煙草《アメリカたばこ》を吹かしていた。
梨にも喰《く》い飽《あ》きた頃、橋本が通訳の大重君に、いろいろ御世話になってありがたいから、御礼のため梨を三十銭ほど買って帰りたいと云うような事を話してくれと頼んでいる。それを大重君がすこぶる厳粛な顔で支那語に訳していると、主人は中途で笑い出した。三十銭ぐらいなら上げるから持って御帰りなさいと云うんだそうである。橋本はじゃ貰って行こうとも云わず、また三十銭を三十円に改めようともしなかった。宿へ帰ったら、下女がある御客さんといっしょに梨畠へ行って、梨を七円ほど御土産《おみやげ》に買って帰った話をして聞かせた。その時橋本は、うんそうか、おれはまた三十銭がた買って来ようと思ったら、三十銭ぐらいなら進上《しんじょう》すると云ったよと澄ましていた。
三十六
壁と云うと鏝《こて》の力で塗り固めたような心持がするが、この壁は普通の泥《どろ》が天日《てんぴ》で干上《ひあが》ったものである。ただ大地と直角《ちょっかく》にでき上っている所だけが泥でなくっ
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