ぎ》をして、余の肩を擦《こす》って行き過ぎた。
三十四
明日《あした》は梨畑《なしばたけ》を見に行くんだと橋本から申し渡されたので、宜《よろ》しいと受合った上、床《とこ》についたようなものの実を云うと例のトロで揺られるのが内心|苦《く》になった。そのせいでもなかろうが、容易に寝つかれない。橋本はもう鼾《いびき》をかいている。しかも豪宕《ごうとう》な鼾である。緞子《どんす》の夜具《やぐ》の中から出るべき声じゃない。まして裾《すそ》の方には金屏風《きんびょうぶ》が立て回してある。
明日になると、空が曇って小雨《こさめ》が落ちている。窓から首を出して、一面に濡《ぬ》れた河原《かわら》の色を眺めながら、おれは梨畑をやめて休養しようかしらと云い出した。橋本は合羽《かっぱ》ももっているし、オヴァーシューも用意して来ているのでなかなか景気が好い。ことに農科の教授だけあって、梨を見たがったり、栗を見たがったり、豚や牛を見たがる事人一倍である。早速用意をして大重君を伴《つ》れて出て行った。余はただつくねんとして、窓の中に映る山と水と河原と高粱《こうりょう》とを眼の底に陳列さしてい
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