ぼると鮎《あゆ》が漁《と》れるそうだ。余は汽車の中で鮎のフライを食って満洲には珍らしい肴《さかな》だと思った。おそらくこの上流からクーリーが売りに来たものだろう。

        三十三

 足駄《げた》を踏むとざぐりと這入《はい》る。踵《くびす》を上げるとばらばらと散る。渚《なぎさ》よりも恐ろしい砂地である。冷たくさえなければ、跣足《はだし》になって歩いた方が心持が好い。俎《まないた》を引摺《ひきず》っていては一足《ひとあし》ごとに後《あと》しざるようで歯痒《はがゆ》くなる。それを一町ほど行って板囲《いたがこい》の小屋の中を覗《のぞ》き込むと、温泉《ゆ》があった。大きい四角な桶《おけ》を縁《ふち》まで地の中に埋《い》け込《こ》んだと同じような槽《ふね》である。温泉はいっぱい溜《たま》っていたが、澄み切って底まで見える。いつの間に附着したものやら底も縁も青い苔《こけ》で色取られている。橋本と余は容赦なく湯の穴へ飛び込んだ。そうして遠くから見ると、砂の中へ生埋《いきうめ》にされた人間のように、頭だけ地平線の上に出していた。支那人の中には、実際生埋になって湯治《とうじ》をやるものがある。
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