紙入の内容の充実していないのに気がついて、少々是公に無心をした。もとより返す気があっての無心でないから、今もって使い放しである。
立つ時には、是公はもとより、新たに近づきになった満鉄の社員諸氏に至るまで、ことごとく停車場《ステーション》まで送られた。貴様が生れてから、まだ乗った事のない汽車に乗せてやると云って、是公は橋本と余を小さい部屋へ案内してくれた。汽車が動き出してから、橋本が時間表を眺めながら、おいこの部屋は上等切符を買った上に、ほかに二十五|弗《ドル》払わなければ這入《はい》れない所だよと云った。なるほど表《ひょう》にちゃんとそう書いてある。専有の便所、洗面所、化粧室が附属した立派な室《へや》であった。余は痛い腹を忘れてその中に横になった。
三十二
トロと云うものに始めて乗って見た。停車場へ降りた時は、柵《さく》の外に五六軒長屋のような低い家が見えるばかりなので、何だか汽車から置き去りにされたような気持であったが、これからトロで十五分かかるんだと聞いて、やっと納得《なっとく》した。
トロは昔軍人の拵《こしら》えたのを、手入もせずに、そのまま利用している
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