すくれない》の端に真珠を削《けず》ったような爪が着いて、手頃な留り木を甘《うま》く抱《かか》え込《こ》んでいる。すると、ひらりと眼先が動いた。文鳥はすでに留り木の上で方向《むき》を換えていた。しきりに首を左右に傾《かたぶ》ける。傾けかけた首をふと持ち直して、心持前へ伸《の》したかと思ったら、白い羽根がまたちらりと動いた。文鳥の足は向うの留り木の真中あたりに具合よく落ちた。ちちと鳴く。そうして遠くから自分の顔を覗《のぞ》き込んだ。
 自分は顔を洗いに風呂場《ふろば》へ行った。帰りに台所へ廻って、戸棚《とだな》を明けて、昨夕《ゆうべ》三重吉の買って来てくれた粟の袋を出して、餌壺の中へ餌を入れて、もう一つには水を一杯入れて、また書斎の縁側へ出た。
 三重吉は用意周到な男で、昨夕《ゆうべ》叮嚀《ていねい》に餌《え》をやる時の心得を説明して行った。その説によると、むやみに籠の戸を明けると文鳥が逃げ出してしまう。だから右の手で籠の戸を明けながら、左の手をその下へあてがって、外から出口を塞《ふさ》ぐようにしなくっては危険だ。餌壺《えつぼ》を出す時も同じ心得でやらなければならない。とその手つきまでして
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