ひなた》へ出して曝《さら》しておくうちに黒味《くろみ》が取れてだんだん朱《しゅ》の色が出て来ますから、――そうしてこの竹は一返《いっぺん》善く煮たんだから大丈夫ですよなどと、しきりに説明をしてくれる。何が大丈夫なのかねと聞き返すと、まあ鳥を御覧なさい、奇麗《きれい》でしょうと云っている。
 なるほど奇麗だ。次《つぎ》の間《ま》へ籠を据えて四尺ばかりこっちから見ると少しも動かない。薄暗い中に真白に見える。籠の中にうずくまっていなければ鳥とは思えないほど白い。何だか寒そうだ。
 寒いだろうねと聞いてみると、そのために箱を作ったんだと云う。夜になればこの箱に入れてやるんだと云う。籠《かご》が二つあるのはどうするんだと聞くと、この粗末な方へ入れて時々|行水《ぎょうずい》を使わせるのだと云う。これは少し手数《てすう》が掛るなと思っていると、それから糞《ふん》をして籠を汚《よご》しますから、時々|掃除《そうじ》をしておやりなさいとつけ加えた。三重吉は文鳥のためにはなかなか強硬である。
 それをはいはい引受けると、今度は三重吉が袂《たもと》から粟《あわ》を一袋出した。これを毎朝食わせなくっちゃいけま
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