いろ長くなって、いっしょに午飯を食う。いっしょに晩飯《ばんめし》を食う。その上|明日《あす》の会合まで約束して宅《うち》へ帰った。帰ったのは夜の九時頃である。文鳥の事はすっかり忘れていた。疲れたから、すぐ床へ這入《はい》って寝てしまった。
 翌日《あくるひ》眼が覚《さ》めるや否や、すぐ例の件を思いだした。いくら当人が承知だって、そんな所へ嫁にやるのは行末《ゆくすえ》よくあるまい、まだ子供だからどこへでも行けと云われる所へ行く気になるんだろう。いったん行けばむやみに出られるものじゃない。世の中には満足しながら不幸に陥《おちい》って行く者がたくさんある。などと考えて楊枝《ようじ》を使って、朝飯を済ましてまた例の件を片づけに出掛けて行った。
 帰ったのは午後三時頃である。玄関へ外套《がいとう》を懸《か》けて廊下伝いに書斎へ這入《はい》るつもりで例の縁側へ出て見ると、鳥籠が箱の上に出してあった。けれども文鳥は籠の底に反《そ》っ繰《く》り返《かえ》っていた。二本の足を硬く揃《そろ》えて、胴と直線に伸ばしていた。自分は籠の傍《わき》に立って、じっと文鳥を見守った。黒い眼を眠《ねぶ》っている。瞼《ま
前へ 次へ
全27ページ中23ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング