。二三度試みた後《のち》、自分は気の毒になって、この芸だけは永久に断念してしまった。今の世にこんな事のできるものがいるかどうだかはなはだ疑わしい。おそらく古代の聖徒《せいんと》の仕事だろう。三重吉は嘘《うそ》を吐《つ》いたに違ない。
或日の事、書斎で例のごとくペンの音を立てて侘《わ》びしい事を書き連《つら》ねていると、ふと妙な音が耳に這入《はい》った。縁側でさらさら、さらさら云う。女が長い衣《きぬ》の裾《すそ》を捌《さば》いているようにも受取られるが、ただの女のそれとしては、あまりに仰山《ぎょうさん》である。雛段《ひなだん》をあるく、内裏雛《だいりびな》の袴《はかま》の襞《ひだ》の擦《す》れる音とでも形容したらよかろうと思った。自分は書きかけた小説をよそにして、ペンを持ったまま縁側へ出て見た。すると文鳥が行水《ぎょうずい》を使っていた。
水はちょうど易《か》え立《た》てであった。文鳥は軽い足を水入の真中に胸毛《むなげ》まで浸《ひた》して、時々は白い翼《つばさ》を左右にひろげながら、心持水入の中にしゃがむように腹を圧《お》しつけつつ、総身《そうみ》の毛を一度に振《ふ》っている。そうし
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