をすくめた、眼を細くした、しかも心持|眉《まゆ》を寄せた昔の女の顔がちょっと見えた。自分は床の上に起き直った。寝巻の上へ羽織《はおり》を引掛《ひっか》けて、すぐ縁側へ出た。そうして箱の葢《ふた》をはずして、文鳥を出した。文鳥は箱から出ながら千代千代と二声鳴いた。
三重吉の説によると、馴《な》れるにしたがって、文鳥が人の顔を見て鳴くようになるんだそうだ。現に三重吉の飼っていた文鳥は、三重吉が傍《そば》にいさえすれば、しきりに千代千代と鳴きつづけたそうだ。のみならず三重吉の指の先から餌《え》を食べると云う。自分もいつか指の先で餌をやって見たいと思った。
次の朝はまた怠《なま》けた。昔の女の顔もつい思い出さなかった。顔を洗って、食事を済まして、始めて、気がついたように縁側《えんがわ》へ出て見ると、いつの間にか籠が箱の上に乗っている。文鳥はもう留《とま》り木《ぎ》の上を面白そうにあちら、こちらと飛び移っている。そうして時々は首を伸《の》して籠の外を下の方から覗《のぞ》いている。その様子がなかなか無邪気である。昔紫の帯上《おびあげ》でいたずらをした女は襟《えり》の長い、背のすらりとした、ちょ
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