十五円だと云って居る。家主が怒るかも知れぬ。地坪は三百坪あるから、庭は狭い方では無い。然《しか》し植木は皆自分で入れたのだから、こんな庭の附いている家としたら、三十五円や四十円では借りられないだろう。植木屋と云うものは勝手なもので、一度手入れをさせたら、こっちで呼ばないのに、時々若い者を連れて仕事にやって来る。物の一月余りもこちこち其処辺《そこら》をいじって居る事がある。別に断わるのも妙だと思って、何とも云わずに居るが、中々金がかかる。
 私はもっと明るい家が好きだ。もっと奇麗《きれい》な家にも住みたい。私の書斎の壁は落ちてるし、天井《てんじょう》は雨洩《あまも》りのシミがあって、随分|穢《きたな》いが、別に天井を見て行って呉《く》れる人もないから、此儘《このまま》にして置く。何しろ畳の無い板敷である。板の間から風が吹き込んで冬などは堪《たま》らぬ。光線の工合《ぐあい》も悪い。此上に坐《すわ》って読んだり書いたりするのは辛《つら》いが、気にし出すと切りが無いから、関《かま》わずに置く。此間或る人が来て、天井を張る紙を上げましょうと云って呉れたが、御免《ごめん》を蒙《こうむ》った。別に私
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