文士の生活
夏目漱石氏−収入−衣食住−娯楽−趣味−愛憎−日常生活−執筆の前後
夏目漱石

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)金を儲《もう》けて

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)皆|嘘《うそ》だ。
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 私が巨万の富を蓄えたとか、立派な家を建てたとか、土地家屋を売買して金を儲《もう》けて居るとか、種々な噂《うわさ》が世間にあるようだが、皆|嘘《うそ》だ。
 巨万の富を蓄えたなら、第一こんな穢《きたな》い家に入って居はしない。土地家屋などはどんな手続きで買うものか、それさえ知らない。此家だって自分の家では無い。借家である。月々家賃を払って居るのである。世間の噂と云うものは無責任なものだと思う。
 先《ま》ず私の収入から考えて貰《もら》いたい。私にどうして巨万の富の出来よう筈《はず》があるか――と云うと、ではあなたの収入は?と訊《き》かれるかも知れぬが、定収入といっては朝日新聞から貰って居る月給である。月給がいくらか、それは私から云って良いものやら悪いものやら、私にはわからぬ。聞きたければ社の方で聞いて貰いたい。それからあとの収入
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