は著書だ。著書は十五六種あるが、皆印税になって居る。すると又印税は何割だと云うだろうが、私のは外《ほか》の人のより少し高いのだそうだ。これを云って了《しま》っては本屋が困るかも知れぬ。一番売れたのは『吾輩は猫である』で、従来の菊判の本の外《ほか》に此頃縮刷したのが出来て居る。此の両方合せて三十五版、部数は初版が二千部で二版以下は大抵千部である。尤《もっと》も此三十五版と云うのは上巻で、中巻や下巻はもっと版数が少い。幾割の印税を取った処が、著書で金を儲《もう》けて行くと云う事は知れたものである。
一体書物を書いて売るという事は、私は出来るならしたくないと思う。売るとなると、多少慾が出て来て、評判を良くしたいとか、人気を取りたいとか云う考えが知らず知らずに出て来る。品性が、それから書物の品位が、幾らか卑《いや》しくなり勝ちである。理想的に云えば、自費で出版して、同好者に只《ただ》で頒《わか》つと一番良いのだが、私は貧乏だからそれが出来ぬ。
衣食住に対する執着は、私だって無い事はない。いい着物を着て、美味《うま》い物を食べて、立派な家に住み度《た》いと思わぬ事は無いが、只《ただ》それが出
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