と》止すが、癒《なお》れば又吸う。常に家に居て吸って居るのは朝日である。値段は幾らだか知らぬが、安いのであろうが、妻がこれ許《ばか》り買って置くから、これを飲んで居る。外に出て買う時に限って敷島《しきしま》を吸うのは、十銭銀貨一つ投《ほう》り出せば、釣銭《つりせん》が要《い》らずに便利だからである。朝日よりも美味《うま》いか如何《どう》か、私には解らぬ。
家に対する趣味は人並に持って居る。此の間も麻布《あざぶ》へ骨董屋《こっとうや》をひやかしに出掛けた帰りに、人の家をひやかして来た。一寸《ちょっと》眼に附く家を軒毎《のきごと》に覗《のぞ》き込んで一々点数を附けて見た。私は家を建てる事が一生の目的でも何でも無いが、やがて金でも出来るなら、家を作って見たいと思って居る。併《しか》し近い将来に出来そうも無いから、如何《どう》云う家を作るか、別に設計をして見た事はない。
此家は七間ばかりあるが、私は二間使って居るし、子供が六人もあるから狭い。家賃は三十五円である。家主は外《ほか》との釣合があるから四十円だと云って呉《く》れと云って居るが、別に嘘《うそ》を云う事もないと思って、人には正直に三
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