その大部分、即ち或る水平以上に達したる作物に対してはこの保護金なり奨励金なりを平等に割り宛て、当分原稿料の不足を補うようにしたら可《よ》かろうと思う。固《もと》より各人に割り宛てれば僅かなものに違ないけれども、一つの短篇について、三十円|乃至《ないし》五十円位な賞与を受ける事が出来たなら、賞与に伴う名誉などはどうでも可いとして、実際の生活上に多少の便宜はある事と信ぜられるからである。こうすれば雑誌の編輯者とか購買者とかにはまるで影響を及ぼさずに、ただ雑誌を飾る作家だけが寛容《くつろ》ぐ利益のある事だから、一雑誌に載る小説の数がむやみに殖《ふ》える気遣《きづかい》はない。尤《もっと》も自分で書いて自分で雑誌を出す道楽な文士は多少|増《ます》かも知れないが、それは実施の上になって見なければ分らない。
余は以上の如く根本において文芸院の設置に反対を唱うるものであるが、もし保護金の使用法について、幸いにも文芸委員がこの公平なる手段を講ずるならば、その局部に対しては大《おおい》に賛成の意を表するに吝《やぶさ》かならざるつもりである。その他の企画についても悉《ことごと》く非難する必要は無論認めな
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