い。けれども大体の筋からいって、凡《すべ》てこれらは政府から独立した文芸組合または作家団というような組織の下に案出され、またその組織の下に行政者と協商されべきである。惜《おし》いかな今の日本の文芸家は、時間からいっても、金銭からいっても、また精神からいっても、同類保存の途を講ずる余裕さえ持ち得ぬほどに貧弱なる孤立者またはイゴイストの寄合《よりあい》である。自己の劃したる檻内《かんない》に咆哮《ほうこう》して、互に噛《か》み合う術は心得ている。一歩でも檻外に向って社会的に同類全体の地位を高めようとは考えていない。互を軽蔑した文字を恬《てん》として六号活字に並べ立てたりなどして、故《こと》さらに自分らが社会から軽蔑されるような地盤を固めつつ澄まし返っている有様《ありさま》である。日本の文芸家が作家《オーソース》倶楽部《クラブ》というほどの単純な組織すらも構成し得ない卑力《ひりょく》な徒《と》である事を思えば、政府の計画した文芸院の優《ゆう》に成立するのも無理はないかも知れぬ。
[#地から2字上げ]――明治四四、五、一八―二〇『東京朝日新聞』――



底本:「漱石文明論集」岩波文庫、岩波書
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