らんのであります。分化作用を述べる際につい口が滑《すべ》って文学者ことに小説家の眼識に論及してしまったのであります。だからこれをもって彼らの使命の全般をつくしたとは申されない。前にも云う通りついでだから分化作用に即《そく》して彼らの使命の一端を挙《あ》げたのに過ぎんのである。したがって文学全体に渉《わた》っての御話をするときには今少し概括的《がいかつてき》に出て来なければならぬ訳です。これから追々そこまで漕ぎつけて行きます。
かく分化作用で、吾々は物と我とを分ち、物を分って自然と人間(物として観たる人間)と超感覚的な神(我を離れて神の存在を認める場合に云うのであります)とし、我を分って知、情、意の三とします。この我[#「我」に白丸傍点]なる三作用と我以外の物[#「物」に白丸傍点]とを結びつけると、明かに三の場合が成立します。すなわち物に向って知を働かす人と、物に向って情を働かす人と、それから物に向って意を働かす人であります。無論この三作用は元来独立しておらんのだから、ここで知を働かし、情を働かし、意を働かすと云うのは重[#「重」に白丸傍点]に働かすと云う意味で、全然他の作用を除却して
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