にえらいと考えている。内務省の地方局長の方がなお遥にえらいと思っている。大臣や金持や華族様はなおなお遥にえらいと思っている。妙な事であります。もし我々が小説家から、人間と云うものは、こんなものであると云う新事実を教えられたならば、我々は我々の分化作用の径路において、この小説家のために一歩の発展を促《うなが》されて、開化の進路にあたる一叢《ひとむら》の荊棘《いばら》を切り開いて貰ったと云わねばならんだろうと思います。(小説家の功力《くりき》はこの一点に限ると云う意味ではない。この一点を挙《あ》げて考えても局長さんや博士さんに劣るものでないと云うのであります)もし諸君がそんな小説家は現今日本に一人もないではないかと云われるならば、私はこう答える。それは小説家の罪ではない。現今日本の小説家(私もその一人と御認めになってよろしい)の罪である。局長にでも[#「でも」に傍点]があるごとく、博士にでも[#「でも」に傍点]があるごとく、小説家にでも[#「でも」に傍点]があるのも御互様と申さねばならぬのであります。――また泥溝《どぶ》の中へ落ちました。
 実はまだ文学の御話をするほどに講演の歩を進めてお
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