を受け合って日曜に来るかも知れない。御互の損になります。空間があると心得なければ、また空間を計る数と云うものがなければ、電車を避ける事もできず、二階から下りる事もできず、交番へ突き当ったり、犬の尾を踏んだり、はなはだ嬉《うれ》しくない結果になります。普通に知れ渡った因果の法則もこの通りであります。だからすべてこれらに存在の権利を与えないと吾身《わがみ》が危ういのであります。わが身が危うければどんな無理な事でもしなければなりません。そんな無法があるものかと力味《りきん》でいる人は死ぬばかりであります。だから現今ぴんぴん生息している人間は皆不正直もので、律義《りちぎ》な連中はとくの昔に、汽車に引かれたり、川へ落ちたり、巡査につかまったりして、ことごとく死んでしまったと御承知になれば大した間違はありません。
 すでに空間ができ、時間ができれば意識を割《さ》いて我と物との二つにする事は容易であります。容易などころの騒ぎじゃない。実は我と物を区別してこれを手際《てぎわ》よく安置するために空間と時間の御堂《みどう》を建立《こんりゅう》したも同然である。御堂ができるや否や待ち構えていた我々は意識を攫
前へ 次へ
全108ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング