遂行する、真《まこと》にあさましいものどもでありますから、空間があるとしないと生活上不便だと思うと、すぐ空間を捏造《ねつぞう》してしまう。時間がないと不都合だと勘づくと、よろしい、それじゃ時間を製造してやろうと、すぐ時間を製造してしまいます。だからいろいろな抽象や種々な仮定は、みんな背に腹は代えられぬ切なさのあまりから割り出した嘘であります。そうして嘘から出た真実《まこと》であります。いかにこの嘘が便宜であるかは、何年となく嘘をつき習った、末世澆季《まつせぎょうき》の今日では、私もこの嘘を真実《しんじつ》と思い、あなた方もこの嘘を真実と思って、誰も怪しむものもなく、疑うものもなく、公々然|憚《はばか》るところなく、仮定を実在と認識して嬉《うれ》しがっているのでも分ります。貧して鈍すとも、窮すれば濫《らん》すとも申して、生活難に追われるとみんなこう堕落して参ります。要するに生活上の利害から割り出した嘘だから、大晦日《おおみそか》に女郎のこぼす涙と同じくらいな実《まこと》は含んでおります。なぜと云って御覧なさい。もし時間があると思わなければ、また時間を計る数と云うものがなければ、土曜に演説
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