軍国主義(二)
然《しか》しもう少し低い見地に立つて、もつと手近な所を眺めると、此《この》戦争の当然将来に齎《もたら》すべき結果は、いくらでも吾々の視線の中《うち》に這入《はひ》つて来なければならない。政治上にせよ、経済上にせよ、向後《かうご》解決されべき諸問題は何《ど》の位《くらゐ》彼等の前に横《よこた》はつてゐるか分らないと云《い》つても好《い》い位である。
其中《そのうち》で事件の当初から最も自分の興味を惹《ひ》いたもの、又現に惹きつゝあるものは、軍国主義の未来といふ問題に外ならなかつた。人道の為の争ひとも、信仰の為の闘ひとも、又意義ある文明の為の衝突とも見做《みな》す事の出来ない此《この》砲火の響を、自分はたゞ軍国主義の発現として考へるより外に翻訳の仕様がなかつたからである。欧洲大乱といふ複雑極まる混乱した現象を、斯《か》う鷲攫《わしづかみ》に纏めて観察した時、自分は始めて此《この》戦争に或《ある》意味を附着する事が出来た。さうして重《おも》に其《その》意味からばかり勝敗の成行《なりゆき》を眺めるやうになつた。従つて個人としての同情や反感を度外に置くと、独逸《ドイツ》だ
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