点頭録
夏目漱石

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)何時の間《ま》に

《〔〕》:底本の編集部による、現代仮名遣いのルビ
(例)墻壁《〔しょうへき〕》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)一|寸《すん》も

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)マキア※[#濁点付き片仮名ヱ、1−7−84]ル

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)しば/\ある
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−

       一

 また正月が来た。振り返ると過去が丸で夢のやうに見える。何時の間《ま》に斯《か》う年齢《とし》を取つたものか不思議な位である。
 此《この》感じをもう少し強めると、過去は夢としてさへ存在しなくなる。全くの無になつてしまふ。実際近頃の私《わたくし》は時々たゞの無として自分の過去を観《くわん》ずる事がしば/\ある。いつぞや上野へ展覧会を見に行つた時、公園の森の下を歩きながら、自分は或《ある》目的をもつて先刻《さつき》から足
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