》らしい意味を着《つ》けた。さうして彼の思想を此《〔この〕》大戦争の影響者である如くに言ひ出した。是は誰の眼《め》にも映《うつ》る程|屡《しば/\》繰り返《かへ》された。基督《〔キリスト〕》の道徳は奴隷《どれい》の道徳であると罵つたのは正にニーチエであると同時に、ビスマークを憎みトライチケを侮つたのもニーチエであるとすると、彼が斯《〔こ〕》ういふ解釈を受けて満足するかどうかは疑問である。本人の思はく如何《〔いかん〕》は別問題として、彼の唱道した超人主義の哲学が、此際|独乙《〔ドイツ〕》に取つて、何《ど》れ程役に立つてゐるかも遠方に生れた自分には殆んど見当が付かない。
 仏蘭西《〔フランス〕》の一批評家は「所謂《〔いわゆる〕》独乙的発展」といふ題目の下《した》に、ヘーゲルとビスマークとヰリアム二世の名を列挙した。彼はヘーゲルの様な純粋の哲学者を軍人政治家と結び付《つ》ける許りか、其思想が彼等軍人政治家の実行に深い関係を有してゐるのだといふ事《こと》を説明しやうと試みた。彼の云ふ所によると、普魯西《〔プロシア〕》の軍国主義はヘーゲルの観念論の結果に外ならんといふのである。――元来独乙のアイ
前へ 次へ
全33ページ中20ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング