れの方面から見ても手段は目的以下のものである。目的よりも低級なものである。人間の目的が平和にあらうとも、芸術にあらうとも、信仰にあらうとも、知識にあらうとも、それを今批判する余裕はないが、とにかく戦争が手段である以上、人間の目的でない以上、それに成効の実力を付与する軍国主義なるものも亦《また》決して活力評価表の上に於て、決して上位を占《し》むべきものでない事は明かである。
自分は独逸によつて今日迄|鼓吹《こすゐ》された軍国的精神が、其《その》敵国たる英仏に多大の影響を与へた事を優《いう》に認めると同時に、此《この》時代錯誤的精神が、自由と平和を愛する彼等に斯《か》く多大の影響を与へた事を悲しむものである。
六 トライチケ(一)
欧洲戦争が起つてから、独乙《〔ドイツ〕》の学者思想家の言論を実際的に解釈するものが続々出て来た。
最初|英吉利《〔イギリス〕》の雑誌にはニーチエといふ名前が頻《しき》りに見えた。ニーチエは今度の事件が起る十年も前、既に英語に翻訳されてゐる。英吉利の思想界にあつて別に新《あた》らしい名前でもない。然し彼等は其《〔その〕》名前に特別な新《あた
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