ヂアリズムは観念の科学であつて、其観念なるものが又大いに感情的分子を含《ふく》んでゐる。文字の示現通り単なる冥想や思索でなくつて、場合が許すならば、何時《いつ》でも実行的に変化するのみならず、時としては侵略的にさへなりかねない程《〔ほど〕》毒々しいものである。アイヂアリズムが論議の援助を受けて、主観客観の一致を発見したが最後、こゝに外界と内界の墻壁《〔しょうへき〕》を破壊して、凡てを吸収し尽さなければ已《〔や〕》まない事《こと》になる。アイヂアリズムから思ひも寄らない物質主義が現はれてくる。是は最初から無関心で出立しない哲学として、陥るべき当然の結果である。
此批評家の云ふ事《こと》が、果して真相の解釈であるか何《ど》うか、是も自分には分らない。唯遠くにゐて、其土地の空気を呼吸しない所為《せゐ》か、斯《か》ういふ説明は自分から見て何《〔ど〕》うも切実でないやうな気がする。奇抜な事《こと》は突飛《〔とっぴ〕》な位奇抜とは思ふが、それがため却つて成程と首肯しがたくなる位なものである。
例を挙げればまだ沢山あるが、さう一々も覚えてゐないから、まづ此位にして置いて、自分は一寸|斯《か》うい
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