はない。又短いものではなからう。
普魯西《プロシヤ》人は文明の敵だと叫んで見たり、独逸《ドイツ》人が傍《そば》にゐると食つた物が消化《こな》れないで困ると云《い》つたりしたニーチエは、偉大なる「力」の主張者であつた。不思議にも彼の力説した議論の一面を、彼の最も忌《い》み悪《にく》んだ独逸人が、今政治的に又国際的に、実行してゐるのである。さうして成効してゐるのである。軍国主義の精神には一時的以上の真理が何処《どこ》かに伏在《ふくざい》してゐると認めても差支《さしつかへ》ないかも知れない。
然《しか》し自分の軍国主義に対する興味は、此処迄《ここまで》観察して来ると其処《そこ》で消えてしまはなければならない。自分はこれ以上同じ問題に就《つ》いて考へる必要を認めない。又手数も厭《いと》はしい気がする。自分はもつと高い場所に上《のぼ》りたくなる。もつと広い眼界から人間を眺めたくなる。さうして今|独逸《ドイツ》を縦横に且《かつ》獰猛《だうまう》に活躍させてゐる此《この》軍国主義なるものを、もつと遠距離から、もつと小さく観察したい。
将来に於ける人間の生存上|赤裸々《せきらゝ》なる腕力の発現が
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