象さ。あんなに金持ちや貴族が乱暴をすりゃ、ああなるのは自然の理窟《りくつ》だからね。ほら、あの轟々《ごうごう》鳴って吹き出すのと同じ事さ」と圭さんは立ち留《ど》まって、黒い煙の方を見る。
濛々《もうもう》と天地を鎖《とざ》す秋雨《しゅうう》を突き抜いて、百里の底から沸き騰《のぼ》る濃いものが渦《うず》を捲《ま》き、渦を捲いて、幾百|噸《トン》の量とも知れず立ち上がる。その幾百噸の煙りの一分子がことごとく震動して爆発するかと思わるるほどの音が、遠い遠い奥の方から、濃いものと共に頭の上へ躍《おど》り上がって来る。
雨と風のなかに、毛虫のような眉を攅《あつ》めて、余念もなく眺《なが》めていた、圭さんが、非常な落ちついた調子で、
「雄大だろう、君」と云った。
「全く雄大だ」と碌さんも真面目《まじめ》で答えた。
「恐ろしいくらいだ」しばらく時をきって、碌さんが付け加えた言葉はこれである。
「僕の精神はあれだよ」と圭さんが云う。
「革命か」
「うん。文明の革命さ」
「文明の革命とは」
「血を流さないのさ」
「刀を使わなければ、何を使うのだい」
圭さんは、何にも云わずに、平手《ひらて》で、自分
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