、二十世紀はこの桀紂で充満しているんだぜ、しかも文明の皮を厚く被《かぶ》ってるから小憎《こにく》らしい」
「皮ばかりで中味のない方がいいくらいなものかな。やっぱり、金があり過ぎて、退屈だと、そんな真似《まね》がしたくなるんだね。馬鹿に金を持たせると大概桀紂になりたがるんだろう。僕のような有徳《うとく》の君子は貧乏だし、彼らのような愚劣な輩《はい》は、人を苦しめるために金銭を使っているし、困った世の中だなあ。いっそ、どうだい、そう云う、ももんがあを十|把一《ぱひ》とからげにして、阿蘇の噴火口から真逆様《まっさかさま》に地獄の下へ落しちまったら」
「今に落としてやる」と圭さんは薄黒く渦巻《うずま》く煙りを仰いで、草鞋足《わらじあし》をうんと踏張《ふんば》った。
「大変な権幕《けんまく》だね。君、大丈夫かい。十把一とからげを放《ほう》り込まないうちに、君が飛び込んじゃいけないぜ」
「あの音は壮烈だな」
「足の下が、もう揺れているようだ。――おいちょっと、地面へ耳をつけて聞いて見たまえ」
「どんなだい」
「非常な音だ。たしかに足の下がうなってる」
「その割に煙りがこないな」
「風のせいだ。北風
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