で赤い鉄を打つと奇麗《きれい》だね。ぴちぴち火花が出る」
「出るさ、東京の真中でも出る」
「東京の真中でも出る事は出るが、感じが違うよ。こう云う山の中の鍛冶屋は第一、音から違う。そら、ここまで聞えるぜ」
 初秋《はつあき》の日脚《ひあし》は、うそ寒く、遠い国の方へ傾《かたむ》いて、淋《さび》しい山里の空気が、心細い夕暮れを促《うな》がすなかに、かあんかあんと鉄を打つ音がする。
「聞えるだろう」と圭さんが云う。
「うん」と碌《ろく》さんは答えたぎり黙然《もくねん》としている。隣りの部屋で何だか二人しきりに話をしている。
「そこで、その、相手が竹刀《しない》を落したんだあね。すると、その、ちょいと、小手《こて》を取ったんだあね」
「ふうん。とうとう小手を取られたのかい」
「とうとう小手を取られたんだあね。ちょいと小手を取ったんだが、そこがそら、竹刀《しない》を落したものだから、どうにも、こうにもしようがないやあね」
「ふうん。竹刀を落したのかい」
「竹刀は、そら、さっき、落してしまったあね」
「竹刀を落してしまって、小手を取られたら困るだろう」
「困らああね。竹刀も小手も取られたんだから」
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