いう気ばかり強く起った。面倒を避けるために金の力を藉《か》りたとはどうしても思えなかった。
彼は無言のままもう一枚の書付を開いて、其所に自分が復籍する時島田に送った文言《もんごん》を見出した。
「私儀《わたくしぎ》今般貴家御離縁に相成《あいなり》、実父より養育料差出|候《そうろう》については、今後とも互に不実不人情に相成ざるよう心掛たくと存《ぞんじ》候」
健三には意味も論理《ロジック》も能《よ》く解らなかった。
「それを売り付けようというのが向うの腹さね」
「つまり百円で買って遣ったようなものだね」
比田と兄はまた話し合った。健三はその間に言葉を挟《さしはさ》むのさえ厭《いや》だった。
二人が帰ったあとで、細君は夫の前に置いてある二通の書付を開いて見た。
「こっちの方は虫が食ってますね」
「反故《ほご》だよ。何にもならないもんだ。破いて紙屑籠《かみくずかご》へ入れてしまえ」
「わざわざ破かなくっても好《い》いでしょう」
健三はそのまま席を立った。再び顔を合わせた時、彼は細君に向って訊《き》いた。――
「先刻《さっき》の書付はどうしたい」
「箪笥《たんす》の抽斗《ひきだし》にし
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