まって置きました。」
 彼女は大事なものでも保存するような口振《くちぶり》でこう答えた。健三は彼女の所置を咎《とが》めもしない代りに、賞《ほ》める気にもならなかった。
「まあ好《よ》かった。あの人だけはこれで片が付いて」
 細君は安心したといわぬばかりの表情を見せた。
「何が片付いたって」
「でも、ああして証文を取って置けば、それで大丈夫でしょう。もう来る事も出来ないし、来たって構い付けなければそれまでじゃありませんか」
「そりゃ今までだって同じ事だよ。そうしようと思えば何時でも出来たんだから」
「だけど、ああして書いたものをこっちの手に入れて置くと大変違いますわ」
「安心するかね」
「ええ安心よ。すっかり片付いちゃったんですもの」
「まだなかなか片付きゃしないよ」
「どうして」
「片付いたのは上部《うわべ》だけじゃないか。だから御前は形式張った女だというんだ」
 細君の顔には不審と反抗の色が見えた。
「じゃどうすれば本当に片付くんです」
「世の中に片付くなんてものは殆《ほと》んどありゃしない。一遍起った事は何時までも続くのさ。ただ色々な形に変るから他《ひと》にも自分にも解らなくなるだ
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