道草
夏目漱石
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)健三《けんぞう》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)ある日|小雨《こさめ》が降った
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]
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一
健三《けんぞう》が遠い所から帰って来て駒込《こまごめ》の奥に世帯《しょたい》を持ったのは東京を出てから何年目になるだろう。彼は故郷の土を踏む珍らしさのうちに一種の淋《さび》し味《み》さえ感じた。
彼の身体《からだ》には新らしく後《あと》に見捨てた遠い国の臭《におい》がまだ付着していた。彼はそれを忌《い》んだ。一日も早くその臭を振《ふる》い落さなければならないと思った。そうしてその臭のうちに潜んでいる彼の誇りと満足にはかえって気が付かなかった。
彼はこうした気分を有《も》った人にありがちな落付《おちつき》のない態度で、千駄木《せんだぎ》から追分《おいわけ》へ出る通りを日に二返ずつ規則のように往来
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