い》なさそうな眼を丸くして健三を見た。
「でも健ちゃんなんぞは顔が顔だからね。そうしみったれ[#「しみったれ」に傍点]た真似《まね》も出来まいし、それにあの島田って爺《じい》さんが、ただの爺さんと違って、あの通りの悪党《わる》だから、百円位仕方がないだろうよ」
姉は健三の腹にない事まで一人合点《ひとりがてん》でべらべら喋舌《しゃべ》った。
「だけど御正月早々御前さんも随分好い面《つら》の皮さね」
「好い面の皮|鯉《こい》の滝登りか」
先刻《さっき》から傍《そば》に胡坐《あぐら》をかいて新聞を見ていた比田は、この時始めて口を利いた。しかしその言葉は姉に通じなかった。健三にも解らなかった。それをさも心得顔にあははと笑う姉の方が、健三にはかえって可笑《おか》しかった。
「でも健ちゃんは好いね。御金を取ろうとすればいくらでも取れるんだから」
「こちとらとは少し頭の寸法が違うんだ。右大将《うだいしょう》頼朝公《よりともこう》の髑髏《しゃりこうべ》と来ているんだから」
比田は変梃《へんてこ》な事ばかりいった。しかし頼んだ事は一も二もなく引き受けてくれた。
百二
比田と兄が揃《
前へ
次へ
全343ページ中339ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
夏目 漱石 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング