も真面目《まじめ》に考えられなかった。彼は毎月《まいげつ》いくらかずつの小遣を姉に送る身分であった。その姉の亭主から今度はこっちで金を借りるとなると、矛盾は誰の眼にも映る位明白であった。
「辻褄《つじつま》の合わない事は世の中にいくらでもあるにはあるが」
 こういい掛けた彼は突然笑いたくなった。
「何だか変だな。考えると可笑《おか》しくなるだけだ。まあ好《い》いや己《おれ》が借りて遣《や》らなくってもどうにかなるんだろうから」
「ええ、そりゃ借手はいくらでもあるんでしょう。現にもう一口ばかり貸したんですって。彼所《あすこ》いらの待合《まちあい》か何かへ」
 待合という言葉が健三の耳になおさら滑稽《こっけい》に響いた。彼は我を忘れたように笑った。細君にも夫の姉の亭主が待合へ小金を貸したという事実が不調和に見えた。けれども彼女はそれを夫の名前に関わると思うような性質《たち》ではなかった。ただ夫と一所になって面白そうに笑っていた。
 滑稽の感じが去った後で反動が来た。健三は比田について不愉快な昔まで思い出させられた。
 それは彼の二番目の兄が病死する前後の事であった。病人は平生《へいぜい》か
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