悪いから止《よ》しました」
舞葡萄《まいぶどう》とかいう木の一枚板で中を張り詰めたその大きな唐机《とうづくえ》は、百円以上もする見事なものであった。かつて親類の破産者からそれを借金の抵当《かた》に取った細君の父は、同じ運命の下《もと》に、早晩それをまた誰かに持って行かれなければならなかったのである。
「縁起はどうでも好《い》いが、そんな高価《たか》いものを買う勇気は当分こっちにもなさそうだ」
健三は苦笑しながら烟草《タバコ》を吹かした。
「そういえば貴夫《あなた》、あの人に遣《や》る御金を比田《ひだ》さんから借りなくって」
細君は藪《やぶ》から棒にこんな事をいった。
「比田にそれだけの余裕があるのかい」
「あるのよ。比田さんは今年限り株式の方をやめられたんですって」
健三はこの新らしい報知を当然とも思った。また異様にも感じた。
「もう老朽だろうからね。しかしやめられれば、なお困るだろうじゃないか」
「追ってはどうなるか知れないでしょうけれども、差当《さしあた》り困るような事はないんですって」
彼の辞職は自分を引き立ててくれた重役の一人が、社と関係を絶った事に起因しているらしか
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